現代美術展 CAF.ネビュラ展 2009

CAF.ネビュラ展 2009

ごあいさつ

企 画: ブルースハーブ演奏:浅見安二郎さん・倉品真希子
特別講演「絵の具の最新技術と創作実践について」 講師=株式会社クサカベ(代表取締役社長甲賀正男氏/技術開発部長松本健一氏)

アートトークの様子

主催者代表

2009年は実質的に新しい世紀のはじまりになったようです。前の世紀は経済の支配力が加速度的に増大し、2008年世界的金融危機が地球上を駆け巡り、経済は大きく混乱しました。「世紀末」が取沙汰された2000年を過ぎても20世紀体制が継続し、新しい動きは封じ込められ、世界的に沈滞感が漂っていました。
2009年、政治の変化と同調するかのように、アートに対する人々の意識に変化の兆しが現われ、新しい世紀の輪郭が朧げながら浮上してきたように感じます。この夏いくつかの地域で開催された野外展へは、交通事情が極めて悪いにも拘わらず、アートを野外空間で楽しんだり、アートボランティアとしてアートの制作に参加する人達が大勢訪れ、過疎で悩む地域の人々に笑顔が見られました。
2009CAFネビュラ展も、「ネビュラの精神」に沿って、新しい時代の風を取り入れながらアート力を増大させようと、新たな方向性を試行することにしました。これまで異なる文化圏のアーティストと交流し、その作品から刺激を受けることを目的に、海外からアーティストをゲストとして招聘してきましたが、今までと異なるアートの方法論を見い出す契機になればと考え、若い世代の動向にも注視し、彼らがどのようにしてコンテンポラリーな価値観を付加しようとしているかを探るため、CAFネビュラの企画担当者は、美術系大学の卒業制作展などを訪れ、ゲスト出品としてキューレションを試みました。
一方、CAFネビュラはアートネットワークの構築の目指すSaitama Muse Forum(SM F)と協働し、根岸和弘氏監修による、子供からお年寄りまでだれでも参加できる「3000本かざぐるまインスレーション」を北浦和公園で展開します。併せて会期中に、若手アーティスト浅見俊哉氏による親子で楽しむワークショップを行います。今後CAFネビュラの活動は、このような参加型のアートプログラムを取り入れながら、異なるアートフォームにも注視し、地域と現代をアートでつなぐことを目指してまいります。CA Fネビュラは、夜空に輝く星雲(ネビュラ)のように渦巻きながら星 (アーティスト)同士が共に刺激しあって、その輝きを増して行くことでしょう。
最後になりましたが、2009CAFネビュラ展の開催にあたり、多大のご支援を賜わりました協賛企業、協賛者の方々をはじめ、本展に深いご理解とご賛同をいただいている関係各位に対し、心より感謝の意を表したいと思います。

いのちの尊さ

「アートがやわらかい」

ゲストの若者、荒木茉莉、金田菜摘子、戸張晴菜、三井美幸

村田慶之輔(美術評論家/川崎市岡本太郎美術館館長)

こんどCAF. Nから招待作家推薦の依頼があって、ハイと答えたものの、この会は絵と彫刻作家大勢の集まりだから、今更、「同業者」を推すまでもないと思い、小林とむぼさんに参加を願った。小林さんのつくるものは既成の分類の裸体彫刻には納まりにくい。まして工芸の人形には。いうならば「ひとがた」である。
今回の作は人魚、それも鮫の人魚という。小林さん、いや、とむぼさんの方がいい。とむぼさんの作品は、感興のままに進める手すさびとは縁が無い。どれも、みずみずしさと、けなげさを一身にみなぎらす場の醸成は並みのことではないだろう。思考をめぐらし想像力を駆使して夢を紡ぐ。もとから水に心を寄せてきた。水はどうしたら表せるか。水の着想から人魚がまず浮かび、魚をたずねて図鑑を開くと、なぜか鮫に魅かれた。
悪漢扱いされる鮫である。ところが、とむぼさんは鮫のような性質の妖艶な美少女が月に恋をして・・・などと思い入れしながら読み進むうち、人間に関わる「利用と乱獲」の項に来た。このあたり、とむぼさんが参考にしているミランダ・マッキュイティの写真図鑑は、日本の本と姿勢が違うという。これは大事なところだ。
話を聞いて驚いた。観光客が欲しがる土産用の鮫の歯を獲るために、顔だけ切り取られ捨てられる鮫たち。フカヒレのスープのためにヒレだけ剥ぎ取られた鮫は上手く泳げず、もがき苦しんだ果てに仲間の餌食に なったりするというのである。といって、とむぼさんは鮫のエレジーなど唱わない。いのちの尊厳を少女の愛になぞらえる。
このことは、こんどの図録の中の作者の「一言」にも記されているはず。その欄には制作意図を記すべきだと私は言い、とむぼさんもその積りでいた。そもそも出品作家は自分の一言を書くべきで、といって、とりとめない感想などは書かないも同然である。CAF.Nは理念をいくつも掲げているが、理念や理想とは実現されないから理念、理想なので、メンバー個々の現実認識こそが支えだろう。
ところで、当方の美術館には「森の掟」という鮫を描いた岡本太郎の絵がある。戦後間もない1950年、二科展に出品された。敗戦後太郎が、やせ衰えて中国から復員してみれば、家は丸焼け。茫然自失の中か ら、ようやく絵に復帰して四年目の時期である。
深い森の奥に、突如踊り出た真っ赤な怪物鮫。恐慌を来した人や動物。しかし鮫の背中にはチャックが付いていたり、どことなくユーモラスな気分がある。当時はファシズムの暴力批判などと社会性が話題になったりした。それは自由だが、岡本太郎の思いの裡では、いかにも意味ありげなチャックを開けたら中味は馬鹿げたものばかりかも知れぬ。所詮、意味なんて無意味なものだし、自分としては無意味の意味を絵にしたかったのだ。
否応なく、意味もない年が過ぎ、類似の年が巡ってくる。その間、地球上いたるところ、もっともらしいチャックが開かれるたびに馬鹿げた殺りくが繰り返し覗く。そこに立って、とむぼさんも太郎さんも、いのちの尊さをいつまでも思いみている。

吉岡友次郎(画家)

思いがけなく昨年から今年にかけて、若い世代のつまり美大の卒業制作展を数多く見ることになる。もと もと若い世代の作品を見ることは、嫌いではなかった ので、Yさんといっしょに、横浜、六本木、上野と楽しく 経巡る。
その印象を、あえてひと言でいうと、視覚的にも触覚的にも「アートがやわらかい」という、ふしぎな感触がしばらく続いた。
ナイーブといってよいと思うが繊細でやさしい。しばしば戦いは避けるし、争いごとにはけっして近寄らないという風潮が感じられる。
印象だけで語るのが、すこし不安になって、いろいろな出版物のなかから最近の若者像を語ることばをいくつか検索してみた。
「やりたいことしか、したくない」
「関係ないことまでかまっちゃいられない」
「将来のことなんか考えたくない」
「決まっちゃったことはしょうがない」
「どうせ少数派!」
「自分で決めたことだから…」
「自分の考えに従う…」
「電車の中でお化粧したり、ものを食べたりする」
「似たものどうしでなごみたい」
「確かな自分をつかみたい」
「どこかでだれかとつながりたい」などなど…
意図的にこれらのことばを選んだわけではないが、やはりアートを見て回った印象通り、若いのに元気がなく、精神的にも虚弱さがうかがえ、怒るべき時に怒れる人間とは思えない。「自分で決めたことだから…」「自分の考えに従う…」といった自己決定主義という考え方が、逃避しているのではないかとも思えるが、現代の若者たちの規範になってしまったのだろうか。

新しいものが生まれそうな予感

この「アートがやわらかい」というなかから、新しいものが生まれてきそうな予感がある。作品から漂ってくる香りが異なってきている。おじさんが持っているパワーではない、他人の視線をまったく気にもかけない、愛猫を慈しむようなやさしさがある。
テーマのやわらかさ、素材のやわらかさ、ドローイングのやわらかさ、あるにはあるが重々しいアートは少ない。エコをテーマにおどろおどろしいインパクトのある作品などは、どちらかというと違和感があるほど、ほとんど見あたらない。
「やりたいことしか、したくない」「どうせ少数派!」という意識には、創造の原点が感じられる。部屋の片隅で紙片に自分のイメージを克明にたくさん描いて、その消費した時間を楽しむ姿には、うらやま しささえある。比喩的にいうがアトリエで構えた制作ではなく、制作が生活の一部、生活の延長線に位置づけられている。
おじさんには理解できないようなノンコンセプト、なんとなく描いていたらこうなった式の応答がままあるが、いまさら社会に対する問題意識だけでアートが成り立っているわけでもあるまいと思えてくる。
これらのアートのやわらかさに浸るのは、あんがい心地よい、もう世の中は変わってきたのかも知れない。とりもなおさず今回ゲストの若者、荒木茉莉、金田菜摘子、戸張晴菜、三井美幸4氏の作品をのんびりと 眺めて頂きたい。きっと新たなアートの香りが漂ってくるはずだ。

(この文章では、絵画や立体、インスタレーションやパフォーマンスを含めた総称として「アート」と使った。)

ネビュラの可能性

"NEBULA"

2009CAFネビュラ展実行委員会

CAF.NのNはNebula(ネビュラ)の頭文字で星雲の意味、アートの交流が渦巻状に展開されることと、充満したアートのエネルギーが新しい時代に生きる人たちに届くことを願って名付けられました。
CAFは1978年以来、埼玉美術の祭典、第一次CAF、第二次CAF展と呼称を変更しながら、現代美術のコンセプトと表現の問題を社会に問う運動を展開してきましたが、現在これに加え、地域とアートの交流、さらに国際交流の方向性を中軸に位置づけ、活動の密度を高めていこうとしています。
それは、一極集中の進歩発展的思考に見直しがかかり、個人や地域の独自性が求められている現在、アーティストの自由で純粋な思考が、硬直化した地域の現状を打破する糸口を生み出せるかも知れないし、また、海外の異なる文化状況の中で創作された作品に接することによって、新しい時代のパラダイムを探すためのヒントを見付けることができるのでは、と考えるからです。


展覧会開催の歴史

1978-83 埼玉美術の祭典(6回)
1984-87 現代美術の祭典(4回)
1988 現代美術120人展(Pre-CAF)
1989-91 Contemporary Art Festival(CAF)(3回)
1993-2003 Contemporary Art Festival(CAF)(10回)

CAF.Nネビュラ協会のプロジェクト

2004.7 アイスランド、日本現代美術展(アイスランド、ハフナルボルグ美術館)40作家参加
2004.11 CAF.N協会創立展(埼玉県立近代美術館)171作家参加
2005.4 CAF.N京都展(京都、ギャラリーそわか)20作家参加
2005.11 2005CAF.ネビュラ展(埼玉県立近代美術館)123作家、12海外招待作家参加
2006.2 2006CAF.N横浜展(横浜市民ギャラリー)
2006.4 2006CAF.N ミシガン展(ミシガン大学ギャラリー/アメリカ)13作家参加
2006.11 コンパレゾン2006CAF.N コーナー(グランパレ、パリ)15作家参加
2007.2 CAF.N銀座展(東京・銀座、ギャラリー風)10作家参加
2007.5 CAF.N松江展(島根県立美術館)39作家参加
2007.6 CAF.N仙台展(せんだいメディアテーク)43作家参加
2007.11 ル サロン ドゥ コンパレゾン ヌーボー 2007(グランパレ、パリ)16作家参加
2008.2 CAF.N横浜展(横浜市民ギャラリー)50作家参加予定
2008.4 Japanese Fine Art Exhibition(ノースアリゾナ大学ギャラリー、USA)6作家参加
2008.5 2008 CAF.Nラトヴィア展(リーガ国立海外美術館、ラトヴィア)44作家参加
2008.11 ルサロンドゥコンパレゾン2008(グランパレ、パリ)13作家参加
2009.7 CAF.N仙台展(せんだいメディアテーク)28作家参加
2009.11 コンパレゾン展2009CAF.N コーナー(グランパレ、パリ)12作家参加

The Committee of CAF.N Association

Our artists group, the“Contemporary Artists Club”, has changed its name. It is now called the CAF.N Association. CAF is short for “Contemporary Art Festival”, and the letter N stands for“Nebula”, which reflects our wish for our art to develop and spread our widely, just like the spiral of a nebula in the sky. We ardently hope that our energy for our art will reach out to many people in this new age.
Thirty years have now passed since we first started to hold exhibitions. Examples include:

  • 1978-83 Saitama Art Festival (6 times)
  • 1984-87 Gendai Bijutsu Festival (4 times)
  • 1988 Exhibition of Contemporary Art by 120 Artists (Pre-CAF)
  • 1989-91 Contemporary Art Festival (CAF, in its initial stage) (3 times)
  • 1993-2003 CAF (in its 2nd stage) (10 times)
By means of projects such as these, CAF exhibitions were originally intended to raise social awareness of the expressions and concepts of contemporary art. The planning and managing of all the CAF exhibitions is done by the artists themselves.

PROJECTS OF "CAF. N Association"

2004.7 Contemporary Art From Japan in Iceland (Hafnarborg Museum)
2004.11 CAF.N Association Exhibition (The Modern Art Museum. Saitama)
2005.4 CAF.N in Kyoto (Gallery Sowaka)
2005.11 2005 CAF.Nebula Exhibition (The Modern Art Museum. Saitama)
2006.2 CAF.N in Yokohama (The Yokohama Civic Art Gallery)
2006.4 2006 CAF.N in Michigan (Michigan Univ. Gallery)
2006.11 COMPARAISONS 2006 in Paris (Grand Palais)
2007.2 CAF.N in Ginza (Gallery Kaze)
2007.5 CAF.N in Matsue (Shimane Art Museum)
2007.6 CAF.N in Sendai (Sendai Media Take)
2007.11 L'Salon de Comparaisons Nouveau (Grand Palais, Paris)
2007.11 CAF.Nebula Exhibition (The Modern Art Museum. Saitama)
2008.2 CAF.N in Yokohama (The Yokohama Civic Art Gallery)
2008.4 Japanese Fine Art Exhibition (North Arizona Univ. Gallery)
2008.5 CAF.N in Latvia (Riga Museum of Foreign Art)
2008.11 L'Salon de Comparaisons (Grand Palais, Paris)
2009.7 CAF.N in Sendai (Sendai Mediatheque)

We hope that our "Nebula" of art will glitter and sparkle with shining examples of modern artistic culture.