2016 CAF ネビュラ展
会期 | 10:00〜17:30(最終日15:30まで) |
会場 | 埼玉県立近代美術館 一般展示室 全室 (JR北浦和駅西口より徒歩3分) |
企画 | 1. ワークショップ ワークショップ「消える彫刻・巨大シャボン玉」 ※雨天の場合は11.13(日)に順延 講師:藤原昌樹(彫刻家・シャボン玉研究所所長) 参加無料 どなたでも参加できます (30名程度)・見学自由 共催:あなたと どこでも アート 実行委員会 / SMF(Saitama Muse Forum) |
2. アーティストトーク 展示会場で、作家自身が自分の作品について語ります。 |
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CAF.N/生活化した抽象の担い手
「CAF.N」展は、毎年時期に至ると必ずご案内をいただく展覧会である。ただ申し訳ないことにこれまで数回しか拝見したことがない。それもかなりの昔のことだ。今回、いつも送られてくる立派な図録の巻頭言を依頼されて、あらためてそれに目を通すと、なぜか言い知れぬ懐かしさに襲われた。どこかでずっと見知ってなじんできた表現の世界が記憶の淵からよみがえるような感じといったらよいだろうか。言い換えれば、昨今ではほとんど欠落しつつある世界が、あたかも滲むような親しさをもって訪れたのである。
「CAF.N」(以下CAF)は、CONTEMPORARY ART FESTIVAL NEBULAの略で、NEBULAは「星雲」を指す。図録ではそれを「アートの交流が渦巻き状に展開されること」と記している。いわば“渦状星雲”のようにアートの交流を通して、アートのみならず地域社会や国境を越えた世界と結びつき、「一極集中の進歩発展的思考」を見直すきっかけをつくりたい、というミッションがその底には流れている。
それはそれとして、私にとっての“懐かしさ”のよみがえりは、この会派のスタートにあった。戦後1954年に始まり、60年代後半にはもっとも先端的な現代美術を生み出すまでに至った「現代日本美術展(現代展)」(2000年の第29回展で終了、毎日新聞社主催)が、しだいにその力を失っていく70年代末以降の状況下でCAF.Nの前身「埼玉美術の祭典」はスタート(1978年)する。言い換えれば「現代展」はCAFに引き継がれたようにも思える。
もとより当初からこの会派を率いた故・高木康夫がそう考えていたかどうかは今ではわからない。が、ここに出品されている作品を見るにつけ、ここにはいい意味での“生活化した抽象の精神”のごときものが生きている。このことは「現代展」が数十年にわたって築いた日本の戦後美術の表現性の成果とも言い換えられるからである。
まず、その図録に掲載されている各作家のコメントが短いが利いている。なんということはない制作、生活、社会、政治、紛争、天変地異のことなど、自身(星々)の環界がさりげないタッチで寸評のように記されている。他の図録にはあまり見られない肩の張らない制作や自身の心象が抽象作品をフレイムアップする。そのコメントは絵画を最終的に方向づける指針のように働いて表現されたイメージに目鼻をつける。
あるいはかつての「現代展」がアヴァンギャルディズムの生産と発展に与していたとするなら、CAFはそれとはまったく逆の価値観に制作の本質的な意義を見出してきた、と言えるのかもしれない。ハンナ・アーレントを下敷きにして考えれば、それは有目的性(展覧会への出品や「進歩的発展思考」)ではなく、(自身にとっての)有意義性にこそ表現は始まり完結するのだ、という考え方である。このスタンディング・ポジションは、あらゆる意味での文化の成熟度をあらわすバロメーターでもある。そのことがCAFには無理なく自然に備わってきた。そのことも実は興味の涌くところである。
聞けばCAFの会員はおよそ200名。しかし出品するのは毎回100名前後だという。おそらく会場のスペースもあるのだろうが、この締め付けのなさもこの会派の渦状性を裏づけている。かつての「現代展」は、全国からの応募点数が常に1,500を超えたが、それを築地のセリ場のような選考会場で200点余に作品をふるいにかけた。時間と空間でどうしても“量を捌く”というイメージが優先しがちなこうした選考方法と比較して、CAFは明らかに、出品の方法に事務局と作家、あるいは作家どうしでコミュニケーションが介在せざるをえない。それがうまく機能しているのではないかと思われる。
共同体でも組織体でもそれがうまく機能する人数の限界というものがあり、提唱したロビン・ダンバーにちなんでそれを「ダンバー数」というのだそうだが、CAFは奇しくもそのリミットの境界をさまよっている。離合集散の自由な、個々の星々が自由に交流し生活に制作に社会に関わりコミュニケーションを交わしうるこの自由な表現の共同体が、はたしてどのような表現(芸術)のモチベーションを維持し続けていくことができるか、が私にとってはもっぱらの関心事である。
CAF.Nのテーマと活動
ここ数年東日本大震災以来次々に自然からの被害がもたらされ、「人間と自然」をテーマとした作品が多く出品された。そこで茨城県近代美術館で、地域の問 題として災害と芸術の論考を出した前館長の市川政憲氏に答えをもらうことにした。『3.11の分水嶺も消えて、回復された人間の時間は歴史になりつつある と思える。それを「風化」と呼ぶべきでないだろう。それぞれの惨事の記憶を乗り越えて「歴史」となる。集団としての人間の力の証をみる。…』などの有効な メッセージを頂いた。展覧会では作間敏宏の「治癒」があり、「塩水で錆びたパイプに皮膚を突き破られて骸のようになったビニールハウスの風景が、僕の喪失 を表象している。治癒にむけて」とある。去年のゲスト作家野田哲也は「Diary:March12th’11」「ぼくは上野のレンブラント展に行く途中、 あの三陸沖を震源とする地震にあった。作品は翌日帰宅後、テレビで見た画面を構成したもの。」とある。 その外、野口眞木雄の「崩壊」で「気仙沼で錆びた車が大量に積み上げられていた。災害からの復興が始まった」これはシリーズで連作、災害後2年目の気仙沼 の光景、次は’95年の阪神淡路大震災後から始まり福島原発放射能汚染を想起して制作したものと続いている。百瀬裕明、上田靖子、清野光男、菱田祐一郎等 このテーマの出品者は多く鋭い主張の作品となっていた。このことで作家自身が芸術の永遠のテーマと人類の根本問題にいかに直面していることかが分かった。 この傾向は今までのCAF.Nの出品の中で強く印象付けられたことであった。
そしてまた本年4月14日から熊本地震が起こり、星加民雄はじめ熊本展参加の作家たちからエンドレスの震災によってアトリエが崩壊した生々しい状況と制 作が出来なくなった報告が多くよせられた。小生も1970年ごろから現代日本美術展、国展などのコンクール部門に出品していた作品が倒れて割れて山積みと なったグロッタな人体のシリーズを見ることになった。何点補修できるか、解体することの寂しさとともに、この作品は初期の展覧会「埼玉美術の祭典」に出品 したものでもあり懐かしく蘇えってくるものがあった。
1971年に結成された「埼玉に新しい芸術の会」は新しい文化の流れを起こすべく五月女幸雄の呼びかけで美術家以外に書家、詩人、舞踊家、学識経験者、 文化人など広範囲な人材が集まり、美術が好きだった須甲鉄也氏(元埼玉大学学長)が会長になり、本間正義氏がバックアップしてくれた。よって最初から受け 皿のある展覧会が出現することとなって、事務局を高木康夫が担当し、我々が手伝い、内容、企画、運営は全て実行委員会を立ち上げ、決定し進めていくことに なった。初期の段階で集まったのは、毎日現代美術展、読売アンデパンダン、ジャパンアートフェステバル、ハンビコン、北関東美術展等からの参加が多く公募 展から解放され、どこにも所属したくないフリーランサーの熱気に満ちていた。重村三雄、サトルタカダ、堀越陽子、たべけんぞう、スターン・アンダーソン、 石井博康、橋本真之等々…埼玉県立近代美術館スタートとともにいろいろな催しが企画され現代美術の表現を社会に問う運動体としての活動が盛んになっていく 一方で、作家主体の運営で工夫と改善を重ねてきた。特に近年ではゲスト作家制度を充実させて国内外の優れた作家を招待している。昨年は外国4名国内4名、 今年は外国5名国内2名となっている。昨年のパトリック・モンタニャックはあのパリのテロの翌日に駆けつけてくれた。会員とのコラボレーション効果もあり ギャラリートークを含めお互いに刺激し交流効果が高い魅力のある内容になった。
今年はさいたまトリエンナーレもあり、埼玉近美のSMF(文化庁の地域活性化事業)では去年に続いてワークショップ「消える彫刻・巨大シャボン玉」を共 催しています。また、数年前一緒にやった根岸和弘の風車のイベントは再び大掛かりにSMFと共に展開することになりました。CAF.Nの広がりのある開い た内容が大いに期待され、いわゆる“限界芸術”として楽しんで欲しいと思います。
ネビュラの可能性
CAF.NのNはNebula(ネビュラ)の頭文字で星雲の意味、アートの交流が渦巻状に展開されることと、充満したアートのエネルギーが新しい時代に生きる人たちに届くことを願って名付けられました。
CAFは1978年以来、埼玉美術の祭典、第一次CAF、第二次CAF展と呼称を変更しながら、現代美術のコンセプトと表現の問題を社会に問う運動を展開してきましたが、現在これに加え、地域とアートの交流、さらに国際交流の方向性を中軸に位置づけ、活動の密度を高めていこうとしています。
それは、一極集中の進歩発展的思考に見直しがかかり、個人や地域の独自性が求められている現在、アーティストの自由で純粋な思考が、硬直化した地域の現状を打破する糸口を生み出せるかも知れないし、また、海外の異なる文化状況の中で創作された作品に接することによって、新しい時代のパラダイムを探すためのヒントを見付けることができるのでは、と考えるからです。
展覧会開催の歴史
1978-83 | 埼玉美術の祭典(6回) |
1984-87 | 現代美術の祭典(4回) |
1988 | 現代美術120人展(Pre-CAF) |
1989-91 | Contemporary Art Festival(第一次 CAF)(3回) |
1993-2003 | Contemporary Art Festival(第二次 CAF)(10回) |
CAF ネビュラ協会のプロジェクト
2004~現在 | CAF.Nebula展(埼玉県立近代美術館、2013・14 せんだいメディアテーク) |
2004.7 | アイスランド、日本現代美術展(アイスランド、ハフナルボルグ美術館) |
2005.4 | CAF.N京都展(京都、ギャラリーそわか) |
2006.08/10/12 | CAF.N横浜展(横浜市民ギャラリー) |
2006.4 | 2006CAF.N ミシガン展(ミシガン大学ギャラリー) |
2006〜13 | コンパレゾン展(グランパレ、パリ) |
2007.2 | CAF.N銀座展(東京・銀座、ギャラリー風) |
2007.5 | CAF.N松江展(島根県立美術館) |
2007.09 | CAF.N仙台展(せんだいメディアテーク) |
2008.4 | CONTEMPORARY ARTISTS OF JAPAN(ノースアリゾナ大学ギャラリー、USA) |
2008.5 | 2008 CAF.Nラトヴィア展(リーガ国立海外美術館、ラトヴィア) |
2010~2016 | CAF.Nびわこ展(大津市歴史博物館) |
2011.5 | CAF.N金沢展(金沢21世紀美術館) |
2012.8 | CAF.N熊本展(熊本県立美術館) |
2013.6 | CAF.Nびわこ展(大津市歴史博物館) |
2014.7 | CAF.N渋川展(渋川市美術館) |